ソフトボイルドな台本のハードコア化。

現在「おおかみ男のフローチャート」を台本化しているわけなのだが、

この台本には小説版になかった三つのエピソードが追加されている。

1、「鉄塔 武蔵野線」

2、「九マイルは遠すぎる」

3、「お化け煙突」

1番と2番は、すでに小説版の巻末に参考文献として挙げられているのだが、

本編ではちらっとタイトルが出てくるだけで、エピソードとして組み立てられて

いなかった。

3番の「お化け煙突」については、唐十郎氏の戯曲「黄金バット 幻想教師出現/

お化け煙突物語」を新たに参考文献に加えて、エピソードとして組み立て直すこと

にした。

そもそも「おおかみ男のフローチャート」は2017年に出すという目標があった

ので、他の部分の直しだけでバタバタしてしまい、新しいエピソードを加筆する

余裕がなく若干、消化不良の感が残っていたのだ。

(作業を急いだせいで、発行日をモーツァルトの命日にできたのだが・・・)

 

「鉄塔 武蔵野線」

 

このエピソードは、朝の食堂車内で車窓の向こうに展開するイメージとして

追加した。これによって、最後の最後のあの部分のやや唐突な感じは、なくなる

だろうと思う。

「鉄塔 武蔵野線」は第6回日本ファンタジーノベル大賞受賞作であり、これ1作で

<鉄塔文学>という唯一無二のジャンルを築き上げた冒険物語として、映画化もされている。

 

「九マイルは遠すぎる」

 

このエピソードは、夜の食堂車で料理を注文してからオードブルの代わりとして追加した。

「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」という

言葉を偶然耳にしたニッキィ・ウェルト教授が推論を展開させるだけで前夜起きた殺人事件

の真相を導き出すという短編推理小説の古典で、今回追加したエピソードは、その小説の

ことを思い出したおおかみ男が、肝心の教授の推理過程はすっかり忘れていることに気づき、

前夜に列車内で起きた殺人事件という結論から教授の推理過程を逆にたどって、なんとか

思い出そうと試みるという趣向だ。

非常にめんどうな作業だったが、オードブル的なエピソードとしては、なかなかのものに

なったと思う。

 

「お化け煙突物語」

 

ある年代の人には説明不要だと思うが、「お化け煙突」とは、かつてあった千住火力発電所の

4本の煙突のことである。

上空から見ると、ひし形に配置されていることで、見る角度によって1本、2本、3本、4本

と数が変化し、お化けみたいに消えたり現れたりすることから「お化け煙突」と呼ばれ、

昭和39年に取り壊されるまで東京のランドマークだったのだ。

小説版では名前が一瞬出てきただけだったのを、今回、唐十郎著「お化け煙突物語」や紅テント

のイメージをからめて新たなエピソードとして組み立て直し、どこかの部分に書き加える

つもり。(このシーンは、まだ書いてない)

この三つのエピソードを加筆することで、各シークエンスのイメージはさらに重層性を

増し、シーンとエピソードの有機的なつながりとふくらみが、ソフトボイルド・ハードコア

と言うしかないような、ある種、過剰な領域を生み出すだろうと思う。

 

アイキャッチ画像は、淡彩スケッチ町ある記より。http://s.webry.info/sp/tansaisuketti.at.webry.info/201105/article_2.html

鉄塔武蔵野線
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