なんだかんだで気がつくとサン=テグジュペリの「人間の土地」を
ぱらぱらめくってしまう。
どうやらこの先ずっと枕もとに置き続けることになりそうだ。
ただ当時の飛行気乗りたちの勇気の源泉と生態に興味が尽きない。
「人間の土地」は、こんな風に書き始められる。
「ぼくら人間について、大地が、万巻の書より多くを教える。
理由は、大地が人間に抵抗するがためだ。
人間というのは、障害物に対して戦う場合に、はじめて実力を
発揮するものなのだ。」
アンデス山中に不時着し、何も食べずに五日と四晩歩きつづけ、心臓が
一度ぱたりと止まってしまってからも、さらに歩きつづけて奇跡的に
救出された郵便飛行会社の僚友ギヨメ。
リビア砂漠に不時着、遭難して三日間歩き続けて、何度も蜃気楼に騙されながら、
それでも奇跡的に救出されたサン=テグジュぺリ。
パラシュートを三角形に切って夜露を集めてみたら、その水がみごとな
黄緑色で、飲んでみたら案の定はげしく吐いて十五分間もがきつづける。
残骸の中に奇跡のオレンジをひとつ見つけて、この輝かしい果実を見つめながら、
<世間の人たちは、一個のオレンジが、どんなものだか知らずにいる・・・>
と自分に言い聞かせるサン=テグジュぺリ。
ギヨメもサン=テグジュぺリも死刑宣告をされた状態で、ただひたすら歩きつづけて、
そして奇跡が起きた。
自分はまだ黄緑色の水も飲んでないし、一個のオレンジがどんなものかも知らない。
「星の王子さま」に出会ったこともない。
でも、この先ついに追い詰められて、それでもなお歩きつづけるのだとすれば、
いつか「星の王子さま」に近い何かに出会えるかもしれない。
それをいつも忘れないように、やっぱり「人間の土地」を枕もとに置いておかなければ
ならない。
ちなみに「夜間飛行」と「星の王子さま」も、すでに置いてあるのだった。