「ピーナッツ」というマンガを知らない人でも、「スヌーピー」と
言えばわかると思う。
ずっと昔、なんとなく手にした「ピーナッツ」の傑作選に載っていた
傑作どころではない1本のマンガが、いま思うと自分の人生を変えたのだ。
それはスヌーピーの友だちのルーシーとライナス姉弟が交わす短い会話を描いた
わずか9コマのマンガだった。
1コマ目、ライナスがひとり、ほおづえをついて本をながめている。
2コマ目、ライナスが本をもって歩いてゆく。
3コマ目、積み木で遊んでいるルーシーにライナスが話しかける。
「ルーシー、この本、読んでくれる?」
「いや!」
4コマ目、部屋を出て行くルーシーを追いながらせがむライナス。
「いいじゃない・・・」
「いや!」
5コマ目、別の部屋までついてきて「おねが~い?」とねだるライナスに
うんざり顔のルーシー。
6コマ目、しかたなく本を読んであげるルーシー。
「ひとりの男が生まれました・・・かれは生きて死にました!」
7コマ目、「オワリ!」と言って、本を投げ出して去っていくルーシー。
8コマ目、とりのこされて、つぶやくライナス。
「なんてワクワクするような話だろ・・・」
9コマ目、「現実にその男と会ってみたいような気をおこさせるほどだ・・・」
このたった9コマの中に、「何を表現すべきか?」という問いに対する答えが
あると思った。
これがその後、「おおかみ男のフローチャート」のテーマになる。
このこと以外に表現すべきことなんてない、そう悟ったということかもしれない。
だから、「おおかみ男のフローチャート」は、文字通りルーシーのあのセリフから
始まるのだ。
ひとりの男が生まれました・・・
かれは生きて死にました!
オワリ!
ぼくは彼女のこのセリフが忘れられない。
彼女はルーシー・ヴァンぺルトといって、あの世界一有名なビーグル犬、
スヌーピーのガールフレンド。
ある日、弟のライナスに「この本、読んでくれる?」としつこくせがまれた
ルーシーは、めんどくさそうに本をひらくなり、さっきのセリフ。
このたった9コマのマンガのすごさは、そこで終わらないところだ。
ルーシーが本を投げだして去ったあと、とりのこされたライナスはつぶやく。
「なんてワクワクするような話だろ・・・現実にその男と会ってみたいような
気をおこさせるほどだ・・・」
命が軽くなった。心がくすぐられて笑いだした。
ぼくも、この男と会ってみたくなった。
ぐるるる・・・
腹が鳴ったわけではない。
ぼくは、おおかみ男なのだ。
だれにも言ったことはない。これからも、だれにも言わない。
ぼくは、おおかみ男の物語にありがちな悲劇なんて語りたくもない。
あのルーシーのセリフに当てはめてみてほしい。
ひとりのおおかみ男が生まれました・・・
かれは生きて死にました!
オワリ!
それだけのことだ。
ほんとにそれだけのことをあらゆる手段を使って語り尽くすために、
「おおかみ男のフローチャート」を書いてしまったのだった。
それ以外にも、ルーシーの名言は多い。
講談社
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