フルムーン・エクスプレスの車窓には「仁丹」とそれ以外しかない。

「おおかみ男のフローチャート」の舞台はほぼ寝台特急フルムーン・

エクスプレスの車内である。

もちろん、車窓の景色に触れる部分がところどころにあるわけだが、

ほとんど抽象化されている。

その中で、やたらに具体的なのが車窓から見える「仁丹」の看板だ。

なぜ、これだけが具体的に現れるのかというと、自分の記憶にある

車窓の景色がなぜか「仁丹」に集約されてしまうからだ。

これまで新幹線などの長距離列車を使った旅行の経験があまりない

せいか、またあるよ、という感じで何度も目にした「仁丹」の野立て看板

が、サブリミナル効果のように脳裏に焼きついてしまったらしい。

おそらく、そこそこあったであろう「いい景色」に申し訳ないかぎりだ。

う~む、誰なんだ。野立て看板には文字しか書いてなかった気がするが、画像をさがしてもなぜか出てこない。

 

もう20年以上、長距離列車に乗っていないので、最近の看板事情が

わからないが、フルムーン・エクスプレスは自分の記憶の中を走っている

わけだから、どうしても「仁丹」が出てきてしまう。

10代、20代にはピンとこないにしても、それ以上の年代にはある程度

思い当たるのではないかと思う。

最近の新幹線の車窓からは「727 cosmetics」みたいな看板がやたら目に

つくらしいが、どうも印象が軽くて書く気にならない。

景色に溶け込むように迷彩してほしいわ。看板の意味ないけど。

 

やっぱり朗読劇なもので、「声に出して読みたい看板」じゃないとなあ。

よって、フルムーン・エクスプレスの車窓からは「仁丹」が見えなければ

ならないのだ。

そういうわけで「仁丹」は、わりと冒頭で出てきますので、お楽しみに。